要するに「人」が全ての中心
社会に存在するリスクを概観すると
1. 人間の故意・過失によるもの
2. 自然災害によるもの
に大きく区分することができます。 また一企業組織についてこの2つのリスクが及ぼす影響を見てみると、
1.人的原因によるものは、発生頻度が比較的高く、発生する損害も企業の存続を脅かすような巨額なものに達する場合がある
2.自然災害には、台風や地震といった社会全体に大きな被害をもたらすものがあるが、一企業に及ぶ損害は、建築基準等の強化により比較的軽微な損害で収まる場合があるという特徴を持っているといえます。
例えば、工場火災により生産設備が一夜にして焼失してしまうというリスクは、メーカーにとって死活問題になるリスクです。しかし、火災事故の発生は、落雷や地震といった自然災害を原因とする場合よりも、タバコの火の不始末、配線コードの過熱、床に染みこんだ機械油への引火等いわゆる整理整頓(ハウスキーピング)を怠ったという人的な原因による場合のほうが多いといえます。
また、近年、企業に発生した巨大損失の中には、いわゆる金融派生商品での運用の失敗、製品の安全管理面 での甘さ等、企業内の人的な要素に起因する損失が多々含まれています。人的な原因で、発生する事故の中には、日常的に発生している自動車の運行に起因する交通 事故や製品の欠陥によるPL事故等も含まれます。こうした観点から見てみると、社会全体で発生している事故の大半が、人的要素によるものであることが理解できると思います。
事故が少なければ損失も少なくなる
社会全体または一企業の中で発生する損失の額を、過去の統計的な数値に基づいて計算するために、次のような算式が用いられます。
一件当たりの平均損害額 X 事故発生件数 = 全体の損失額
したがって、全体の損失額を減少させるためには、「事故発生件数」を限りなくゼロに近づけるための努力が必要ということになります。だからこそ、「損失の原因となる事故の発生を防止することが求められるのです。一方、損失発生の原因となる事故は、常にある一定の確率で発生する」というのが定説でもあります。多数の人間が構成する集団の中では、一定の確率でミスが発生し、その結果 事故が発生し、損失に結びつくという考え方です。すなわち、この考え方を逆の角度から捉えると、ミスが発生する確率を低くし、一件当たりの平均損害額を低く押さえることができれば、全体の損失額も少なくできるということになります。
人的要素の重要性
リスクコントロールを組織内で実現するために、組織を構成する一人一人の構成員が損失軽減に必要な努力、すなわちミスを少なくする努力から始める必要があります。だからといって、「ミスを許すな、ミ スは厳罰にする」といった考えを組織内に導入すれば、一人一人の活力を殺ぐ原因にもなりかねません。また、「ミスを隠す」ということにも結びつきかねません。そこで、社内のコミュニケーションがスムーズにできる体制を確立し、損失発生を極力未然に防止することが肝心です。 しかし、企業の存続を脅かすような損失が発生した場合には、一般社会の常識に基づいて組織内での公平性を維持することも必要とならざるを得えません。こうした事態が発生した場合には、経営責任を含めて、それぞれの職責を明確にすることが求めらことになるでしょう。
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