社員全員がリスクマネジャー
企業組織のトップである社長を含めた取締役会は、リスクが顕在化し、その結果 発生する損害により企業が財務面で損失を計上するような事態に陥った場合に、最終的な責任を負担しなければならない法的義務を負っています。しかし、日常的な現場の実務について具体的にどのようなことが行われているのかを細かく把握することを経営陣に求めることはできないでしょう。そこで、日々の実務に携わる一人一人の社員がリスクマネジメント思想の基本を学ぶ必要が出てきます。 現代の企業組織は、さまざまな分野で技術革新や情報等の専門化が急速に進んでいることから、日常的な業務の流れの中にも昨日までは存在しなかったリスクが紛れ込んできていることが多々あります。急激な社会環境や職場環境の変化に伴って発生してくるリスクは、実務の現場にいなければ、なかなか把握することはできません。
中間管理職の役割
中間管理職は、企業規模の大小によっても定義が異なってくるものと思われますが、企業活動における最先端の実務現場での責任者ということができるでしょう。例えば、係長や課長といった立場の人たちがこれに該当すると考えられますが、最近は、チームリーダーといったタイトルを使う企業も増えてきています。無論、経営と実務現場を結ぶ部長職は、実務現場の最終責任者と位 置づけることができることから、ここまでの職位を実務現場としてひと括りにすることも可能でしょう。 リスクマネジメントを企業組織内で実現するための必須要件は、経営トップがリスクマネジメント思想をきちんと確立し、実現しようとする意欲を維持することに他なりませんが、「具体的に何をどうするのか」という点については、実務の現場で取り組むことが求められます。そこで実務の責任者である、いわゆる中間管理職の意識づけを行うことが肝心になってきます。
リスクの洗い出しこそが基本
「リスクの洗い出し」という表現は、欧米型のリスクマネジメントでは、「リスクの発見、確認、分析、評価」と呼ばれているものです。「リスクを洗い出せ!」と日常的な実務の現場で言ったとしても、「リスク」についての一定の理解を実務担当者が持っていなければ、洗い出しようがありません。そこで、「リスクとは一体どのようなものなのか」という一応の定義を持つ必要があります。リスクマネジメントでは、リスクの定義を極めて抽象的に「不確実性」と呼んでいますが、それぞれの実務現場に適した、もっと噛み砕いた表現を使わなければ理解を得ることができないでしょう。例えば、
1. 財務・経理等直接的に企業の資金を扱う部署では、企業に損失をもたらすような事故としてどのよ
うなことが考えられるのか
2. システム等いわゆるITと呼ばれるデータ管理部門では、どのような事故が損失を発生することに
なるのか
3. 製造部門では、製品の安全性についてどう対応しているのか
4. 営業・販売部門では、取引先や消費者との関係でどうなのか
という観点に立脚し、実務担当者レベルで、まずは最も簡便な手法として「ブレーンズストーミング」を繰り返し実施することが必要になってきます。「ブレーンズストーミング」は、いわば、思いつきによる発言ですから、最初のアプローチでは箇条書き方式で発言をリスト化していくことが必要でしょう。リスクマネジメントでは、リスクの「発見・確認」という段階に当たることになります。次に管理職を中心として、そのリストの中に記載された個々の問題について価値判断を加え、分析・評価による絞り込みをしていくことになります。
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